04/10
〜有り合い妖怪裁判官〜

◆見聞録
とある夏の宵、人間が同じ人間によって裁かれるように、
妖怪も妖怪によって裁かれるべきだという声が界隈に広まった。
高位の怪異たちは、さっそく近場の妖怪を一匹引っ捕らえると、
これを妖怪裁判官に仕立て上げ
オサバキ様と呼ばせることにした。

本来の妖怪としての象徴であった下半身は丸ごともぎ取られ、
元が何の妖怪であったのか、何を目的に存在していたのか、
もはや誰にも知り得ないものとなった。

ルールに同意したものは裁判官の決定に必ず従うという
誓約を記した御札、真と虚を見分ける眼、
判決内容を反芻し記録する口、
これらが頭に縫い付けられている。

妖怪は生まれたときから存在理由が明確であり、
己の道に迷うことは滅多にないため、
ポジティブな思考を持っているものが多い。
彼女も例外ではない。
成り行きで酷い目に遭ったとはいえ、
今ではオサバキ様としての役割を果たすことに精一杯。
仕打ちを恨む暇も、昔の自分を思う余裕もない。
一「オサバキ様って、普段お勤めがないときは何してるんです?」
裁「何してるって、裁判以外に何をしたらいいというの」
一「いえいえ。裁判以外のとき、オフのときの話ですよ」
裁「さあ……」
一「さあ、て。他人事みたいに。
まさか何もせずぼうっと過ごしているわけじゃないでしょう」
裁「覚えてないなあ」
一「そんなんで裁判官って務まるものなんですか……」
裁「なんなら試しにやってみる?」
一「な、何をです?」
裁「さあ、なんでしょう」

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