『はじめまして。204番です。ご指名ありがとう』

『この身体ですか。大丈夫です。
 ちゃんと出来ますから安心してください』

『???
 こんなこともうしなくていいって、どういう意味ですか?』


 お客様どちらへ…
 商品の借り出しはオーナーにご相談頂きませんと…
 失礼ですが会員証の方は…
 お客様?…



ついこの間、とある著名人が自身のtwitter上で
『一つ目アイドルのブームってもう終わった感あるよね』
といったようなことを呟いたところ、ふとしたことからこれが拡散されて
一部で論争が起こったりちょっとした炎上騒ぎになった……なんて記事が
俺たちがたまたま閲覧していたまとめサイトにも載っていた。

「そういえばあのとき吉田も言ってたよな。
 "私なんてどうせすぐ飽きるんだからさ"…って」

その流れから出た俺の言葉がこれだった。
誓って他意はなくて、印象的な思い出のワンシーンがそのまま口に現れたんだけど
言った瞬間、これ以上ないくらいの速さで血の気の引いていったのを覚えている。

言われた吉田は、いかにも何か考えるように視線を右上、左下へとやったあと
ちょっと見たことないような……あるような表情をして、こう言った。


「飽きた?」



……

『飽きた?』

『ヘンなこと聞くなよ。それに、だったら…』

『?』

『世の中のみんなが"飽きた"というのなら
 俺はいまこの世界中で最も君に夢中な男だということになる。
 俺たちがこうなってからもうどれだけ経っただろうか?
 俺はあの日、あのときから一切変わっちゃいないんだ。
 確かに俺は一つ目じゃないかもしれないが…
 俺は、君の一つ目《一番目》の男になりたいんだ!』

……って、ぐわあqwsdfgh

「ど、どうしたの…」

吉田がヘンテコなものを見るときの目で俺を見ている。
道端でいきなり押し黙ったかと思いきや
唐突に取り乱しだしたのだから仕方ない。

 昨日は自分の撒いた種とはいえ急にあんなことを聞かれたもんだから
 思わず言葉に詰まってしまって、そのせいで雰囲気も妙な感じになって
 結局ろくに受け答えも出来ないままその日は別れることになっちゃって
 夜にはそのことと吉田のあの表情が頭に焼き付いて全く眠れなくて
 仕方ないから夜更かししてたらどんどん変なテンションになってきて
 次会ったらこんな風に言ってやろうなんて気分になってはみたものの
 一晩空けて温度の下がった頭で本人を前に改めてこう思い返してみると
 これってかなり痛い……いや、失礼じゃないのか?
 失礼というか、切り口が違うというか、言い方の問題というか……

そうこう一人で盛り上がっているうちに
また妙な雰囲気になってしまった。

恥ずかしいやら情けないやら、そのときはもう
考えがまとまるような状態ではなかったけど、それでも俺は
保留したままになっている彼女の問いに答えたい一心で、切り出した。

「あのさ」

「うん」

「…のそういうところが好きなんだよ、俺は」

そして我ながら脈絡のない言葉が出た。
さぞかしなんのこっちゃと思われたことだろう。
でも振り返ると、最初に自分を彼女の前に突き動かしたのも
いままで幾度となく彼女の視線に向き合ってこれたのも
この気持ちによるところだったような気がする。
仕草の一挙一動、物事の考え方、感じ方……そういうところ。
だから、「飽きるとか飽きないとかじゃなくてさ…」

次の言葉がなかなか決まらない、決定打に欠ける男を尻目に
吉田は、いかにも何か考えるように視線を右上、左下へとやったあと
やっぱり見たことないような……あるような表情をして、こう言った。



「じゃあ、お互い様だね」




「ヨッ、蛇蝎の旦那。相変わらず辛気くさい顔しちゃってまあ。」
『ン〜?オメェ、閻蛾蝶カァ。相変わらズ、奇抜な格好してンナァ。』
「へっへ、中々どうして似合いでしょう?たまにゃあどうです。
旦那も気晴らしにぱあっと、思い切ってコスプレしてみちゃあ。」
『冗談ヨセヤィ。恥ズかしクッテ、目モ開けテランねェヨ。』
「開けっぱなしもつらいでしょうに。」
『俺ァ古イ化けダからヨ。ソういう柄じゃァネェンだワ。
マァ、此れカラはオメェらの時代ダァ、古株が邪魔しチャァ悪ィダロ。』
「なーに仰ってんの!旦那みたいなのがどっしり構えてるお陰で、
あっしらサンピンはこうして気ままにやってけてるんです。
化けの次代を担っているのはどっちかったら、これ疑いようがない。
蛾蝶めがちょっかい出せるのも、旦那の器あってのもんですさ。」
『言っテくれンナァ。今日の夕闇ァ、目ニ染ミるゼ。』
「目薬差しときます?」
『イラネェ』


伏魔ノ怪異名鑑
* 蛇蝎《だかつ》
 人が忌み嫌うものの集まり。
 不吉と吉兆を同時に呼び入れるといわれる。
 遠目に見ると塵や綿毛の塊のような姿形をしているが、
 よく見ると、無数のおぞましい物体が犇めき合っている。
* 閻蛾蝶《えんがちょう》
 廃地に咲いたキョウチクトウの蜜を啜る蝶類。
 振り撒く鱗粉を浴びると四十四日激しい痒みに襲われる。
 誰もが避けたがることから、近寄り難いものを指して
 「えんがちょ!」と言う文句が流行ったという。




貴方も私も、色んなもので構成されていて
色んなものに支えられて、生きているんですから
別ものだけど、似たもの同士じゃないですか



Index1 |2 |345

Copyright © keida All Rights Reserved.